締め処理短縮の鍵は“前倒し作業”の設計にある

「なぜ毎回、締め処理が予定より遅れてしまうのか?」
この悩みは、連結決算を担う役員・会計担当者、そして同業の税理士にとって共通の課題です。
近年、決算早期化やグループ経営の強化が叫ばれる中、単なる“作業量の増加”や“人手不足”だけが原因ではありません。
本当に注目すべきは、“前倒しできる作業”をいかに設計し、業務フローに組み込むかという視点です。
本コラムでは、「締め処理短縮の鍵は“前倒し作業”の設計にある」をテーマに、前倒し作業設計の考え方や実践ポイント、失敗しない進め方を専門家の視点でわかりやすく解説します。
締め処理短縮の本質とは
締め処理遅延の「本当の要因」
連結決算における締め処理(クローズ業務)が遅れる最大の要因は、「作業量の多さ」や「人員不足」だけではありません。
実は、多くの現場で“締め日当日まで手をつけられない業務”が多く存在し、それがボトルネックとなっています。
この“ラスト一斉作業型”から、“前倒し分散作業型”へと業務設計を切り替えることが、締め処理短縮のカギとなります。
なぜ“前倒し作業”が締め処理短縮に不可欠なのか
1. ボトルネック解消と平準化
従来の業務フローでは、「締め日が来るまで動けない」「月初一斉作業で大渋滞」といった状況が多発します。
ここで、“前倒し可能な作業”を見極め、月中・期末前から実施することで、作業負荷のピークを平準化できます。
例えば、未収・未払情報や一部固定費の計上、棚卸準備などは、締め日より前に作業開始・仮締めが可能な代表例です。
2. 情報の早期収集・確認
各拠点・子会社からの資料回収や、取引先との照合作業も、前倒しの工夫次第で大幅に前倒しできます。
「提出期限の前倒し」や「システム活用による自動収集」を徹底することで、ボトルネックの解消と情報精度の向上を両立します。
3. 現場の“納得感”と自発的協力
単なる「早くやれ」というトップダウンではなく、「なぜこの工程は前倒し可能なのか」「どの資料をいつまでに欲しいのか」といった納得感ある説明と仕組み化が重要です。
現場への説明責任を果たすことで、現場担当者の自発的な協力も得やすくなります。
前倒し作業設計の実践ポイント
1. 全業務プロセスの棚卸・可視化
まずは現状の締め処理フローを細かく分解し、どの業務が「締め日必須」で、どこが「前倒し可能」なのかを明確化します。
プロセスマップやチェックリストを活用すると可視化しやすくなります。
2. 「前倒しできる作業」の洗い出しと優先順位づけ
- ・未収未払の早期仮計上
- ・固定費・リース・減価償却費の事前仕訳
- ・販売・購買伝票の締日前仮集計
- ・棚卸や在庫データの早期取得・仮入力
- ・グループ間取引や振替伝票の事前調整 など
これらは、システム連携や現場協力を得ることで締め日以前に実施できます。
3. ルール・期限の明確化と徹底
「提出は◯日まで」「承認フローは何日までに完了」など、前倒し工程の締め切りを明文化し、各部門・関係者に徹底します。
システムのリマインダー機能やダッシュボードの活用が有効です。
4. システム化と自動化の推進
会計システムやワークフローシステムを活用し、前倒し作業の自動化・見える化を推進しましょう。
たとえば、「未収未払の自動仕訳」「承認ステータスのリアルタイム共有」などが実現できます。
5. 小さな成功体験を積み上げる
一度に全社展開を狙わず、パイロット部門や特定子会社から始めて成功体験を積み上げるのが、長期的な定着のコツです。
改善事例やKPIの“見える化”も、現場のモチベーション維持につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 前倒し作業の導入で現場の負担は増えませんか?
A1. 初期は一時的に新しいフローへの適応が必要ですが、業務が標準化・分散化することで最終的な負担は軽減され、突発的な残業も大きく減少します。
Q2. どの作業を前倒しすべきか、どう判断すればいいですか?
A2. まずは現状フローを分解・棚卸しし、「締め日でなくてもできる作業」を抽出。その上で現場ヒアリングを重ね、優先順位をつけて進めるのが有効です。
Q3. どれくらいの期間で効果が出ますか?
A3. 小規模の改善であれば1~3ヶ月で効果が体感できます。全社展開やAI活用など本格導入は半年~1年を目安にすると良いでしょう。
用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
締め処理 | 決算・月次など特定期間の会計帳簿を締める作業。英語で「closing」。 |
前倒し作業 | 本来の締め日よりも前に進めておくことが可能な業務。 |
連結決算 | 親会社と子会社などグループ企業の決算をまとめて報告する会計手法。 |
まとめ
締め処理短縮の最大のポイントは、“前倒しできる作業”をいかに業務設計に組み込めるかにあります。
プロセス可視化・現場巻き込み・ルール明確化・システム活用、そしてAI・LLMOなどの新技術導入で、連結決算業務は確実に進化できます。
“今日からできる小さな前倒し”から、締め処理短縮の一歩を踏み出しましょう。

