その他有価証券評価差額金に係る組替調整
期末において保有しているその他有価証券を時価評価することによって、税効果控除後のその他有価証券評価差額金の累計額が貸借対照表に計上されます。これは、翌期首にいったん振り戻します。そのため、当該その他有価証券を売却した際には、取得原価と売却価額(売却時の時価)との差額が売却損益として損益計算書に計上されます。この時、当期の売却損益に含まれている前期または当期に計上されたその他有価証券評価差額金の額が組替調整の対象となります。
具体的な数値を用いて、組替調整を見てみましょう。
その他有価証券評価差額金の組替調整
(前提条件)
1.前期の処理
① P社(親会社)
- 期末にP社が保有しているその他有価証券の内訳はA社株式(簿価200、時価300)、B社株式(簿価400、時価600)であった。
- 期末にP社が保有している子会社株式はS社株式であり、S社発行済株式総数の80%を出資してS社を設立した際に取得したものであった。
- P社の法定実効税率は40%であった。
(前期のその他有価証券評価差額金の計上仕訳)
(借方) | その他有価証券 | *1300 | (貸方) | その他有価証券評価差額金 | *2180 |
繰延税金負債 | *3120 |
- A社株式評価益 ( 300 – 200 )+B社株式評価益 ( 600 – 400 ) = 300
- 300 × 60% = 180 (税効果控除後)
- 300 × 40% = 120 (税効果金額)
(前期のP社貸借対照表)一部抜粋
- A社株式時価 300 + B社株式時価 600 = 900
② S社(子会社)
- 期末にS社が保有しているその他有価証券の内訳はX社株式(簿価800、時価900)であった。
- S社の法定実効税率は40%であった。
(前期のその他有価証券評価差額金の計上仕訳)
(借方) | その他有価証券 | *1100 | (貸方) | その他有価証券評価差額金 | *260 |
繰延税金負債 | *340 |
- X社株式評価益 900 – 800 = 100
- 100 × 60% = 60 (税効果控除後)
- 100 × 40% = 40 (税効果金額)
(前期のS社貸借対照表)一部抜粋
③ 連結財務諸表
(前期の連結財務諸表)一部抜粋
- A社株式時価 300 + B社株式時価 600 + X社株式時価 900 = 1,800
- P社利益剰余金 1,600 + S社利益剰余金 600 × 80% = 2,080
- P社その他有価証券評価差額金 180 + S社その他有価証券評価差額金 60 × 80% = 228
- S社純資産 ( 1,000 + 600 + 60 ) × 20% = 332
2.当期の処理
① P社(親会社)
- 当期においてP社は保有しているA社株式を400で売却した。
- 当期末にP社が保有しているその他有価証券の内訳はB社株式(簿価400、時価640)であった。
- P社の法定実効税率は40%であった。
(当期のその他有価証券評価差額金の振戻仕訳)
(借方) | その他有価証券評価差額金 | 180 | (貸方) | その他有価証券 | 300 |
繰延税金負債 | 120 |
(当期のA社株式売却時の仕訳)
(借方) | 現金預金 | 400 | (貸方) | その他有価証券 | 200 |
投資有価証券売却益 | 200 |
(当期のその他有価証券評価差額金の計上仕訳)
(借方) | その他有価証券 | *1240 | (貸方) | その他有価証券評価差額金 | *2144 |
繰延税金負債 | *396 |
- B社株式評価益 ( 640 – 400 ) = 240
- 240 × 60% = 144 (税効果控除後)
- 240 × 40% = 96 (税効果金額)
(当期のP社貸借対照表と損益計算書) 一部抜粋
- B社株式時価 640
- 期首利益剰余金 1,600 + 当期純利益 1,200 – 配当金 1,000 = 1,800
(当期のその他有価証券の増減)
前期末 | 売却による 減少 |
購入による 増加 |
当期末 | |
---|---|---|---|---|
取得原価 | 600 | △200 | – | 400 |
時価 | 900 | 640 | ||
差額 | 300 | 240 |
(当期のその他有価証券評価差額金の増減)
前期末 | 売却による 組替調整額 |
当期発生額 (差額) |
当期末 | |
---|---|---|---|---|
A社株式 | 100 | △200 | 100 | – |
B社株式 | 200 | – | 40 | 240 |
合計 | 300 | △200 | 140 | 240 |
税効果 | 120 | △80 | 56 | 96 |
税効果控除後 | 180 | △120 | 84 | 144 |
② S社(子会社)
- 当期中においてS社は保有しているX社株式を1,000で売却した。
- 当期末にS社が保有しているその他有価証券の内訳はY社株式(簿価600、時価800)であった。
- S社の法定実効税率は40%であった。
(当期のその他有価証券評価差額金の振戻仕訳)
(借方) | その他有価証券評価差額金 | 60 | (貸方) | その他有価証券 | 100 |
繰延税金負債 | 40 |
(当期のX社株式売却時の仕訳)
(借方) | 現金預金 | 1,000 | (貸方) | その他有価証券 | 800 |
投資有価証券売却益 | 200 |
(当期のY社株式購入時の仕訳)
(借方) | その他有価証券 | 600 | (貸方) | 現金預金 | 600 |
(当期のその他有価証券評価差額金の計上仕訳)
(借方) | その他有価証券 | *1200 | (貸方) | その他有価証券評価差額金 | *2120 |
繰延税金負債 | *380 |
- Y社株式評価益 ( 800 – 600 ) = 200
- 200 × 60% = 120 (税効果控除後)
- 200 × 40% = 80 (税効果金額)
(当期のS社貸借対照表と損益計算書) 一部抜粋
- Y社株式時価 800
- 期首利益剰余金 600 + 当期純利益 600 = 1,200
(当期のその他有価証券の増減)
前期末 | 売却による 減少 |
購入による 増加 |
当期末 | |
---|---|---|---|---|
取得原価 | 800 | △800 | 600 | 600 |
時価 | 900 | 800 | ||
差額 | 100 | 200 |
(当期のその他有価証券評価差額金の増減)
前期末 | 売却による 組替調整額 |
当期発生額 (差額) |
当期末 | |
---|---|---|---|---|
X社株式 | 100 | △200 | 100 | – |
Y社株式 | – | – | 200 | 200 |
合計 | 100 | △200 | 300 | 200 |
税効果 | 40 | △80 | 120 | 80 |
税効果控除後 | 60 | △120 | 180 | 120 |
③ 連結財務諸表
(当期の連結財務諸表) 一部抜粋
- P社利益剰余金 1,800 + S社利益剰余金 1,200 × 80% = 2,760
- P社その他有価証券評価差額金 144 + S社その他有価証券評価差額金 120 × 80% = 240
- S社純資産 ( 1,000 + 1,200 + 120 ) × 20% = 464
- S社当期純利益 600 × 20% = 120
当期の連結包括利益計算書及び注記情報は、以下のようになります。
連結包括利益計算書および注記情報
- P社その他包括利益 ( 144 – 180 ) + S社その他包括利益 ( 120 – 60 ) = 24
- P社包括利益 ( 1,200 – 36 ) + S社包括利益 ( 600 + 60 ) × 80% = 1,692
- S社包括利益 ( 600 + 60 ) × 20% = 132
- P社当期発生額 140 + S社当期発生額 300 = 440 (税効果調整前)
- P社組替調整額 △200 + S社組替調整額 △200 = △400 (税効果調整前)
- P社税効果額 △24 + S社税効果額 40 = 16
なお、連結包括利益計算書と連結貸借対照表および連結損益計算書とのつながりは連結貸借対照表および連結損益計算書とのつながりをご参照ください。